<世界大激震(下)>日本は「積極的経済外交」へ絶好のチャンスー強まる多国間広域経済連携

八牧浩行    2014年8月14日(木) 7時40分

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東アジアを中心に世界で地政学的な地殻変動が起きている。大規模な地殻変動の根幹となるのは「経済」である。激動する国際情勢を読み解いた上で、日本が志向すべき道を探る。資料写真。

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東アジアを中心に世界で地政学的な地殻変動が起きている。日本は日米同盟の強化や多くの国との「価値観外交」を展開しているが、近隣の中国と韓国とは関係が悪化した状態が続いている。米中は事実上「対立を対話で解決する関係」に踏み出した。

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大規模な地殻変動の根幹となるのは「経済」である。韓国の対中接近も最大の貿易相手国、中国についた方が得とのリアリズムが背景。米国だけでなくドイツ、フランス、英国なども世界最大の消費大国・中国のパワーには勝てない。中国は世界最大の消費市場を“売物”に産業協力や輸入拡大をアピール、積極的な首脳外交を展開している。

李克強首相は6月中旬に訪英し、キャメロン英首相と会談、中国向けのエネルギー供給の拡大や、ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道への中国企業の参加、人民元決済推進などで合意した。今回、李首相には200人を超える国有企業や大手民間企業の幹部も同行。総額140億ポンド(約2兆4千億円)に達することを明らかにした。

習近平主席は今年3月に欧州歴訪の途中にフランスを訪れ、オランド仏大統領と会談。中国自動車大手、東風汽車と仏プジョーシトロエングループの提携を歓迎するとともに、原子力、航空機、宇宙開発など幅広い産業分野の協力を盛り込んだ共同声明を発表。事業総額180ユーロ(約2兆5000億円)にのぼる50項目もの経済・産業協力に署名した。

ドイツのメルケル首相は7月上旬に訪中し、習近平国家主席らと会談、包括的な協力関係を深める方針で一致している。

「中国の海洋進出を念頭に防衛力を強化する」というフレーズが日本政府高官やメディアで多用されるが、ただ軍事的に張り合うだけでは東アジアの緊迫化は高まる一方となる。

世界の成長センターである東アジアで経済の相互依存を深めることこそが軍事衝突を防ぐ最大の抑止力になる。2度の世界大戦の教訓から生まれた共通経済市場であるEU(欧州連合)諸国の間では、「戦争が起きると考えている国民はいない」(仏外交筋)という。

米中が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両国間に経済相互依存が存在するためである。日本と中国との間にも国交正常化以来の緊密な相互経済関係がある。浙江省や上海市など経済発展が目覚ましい地方政府のトップを経験し、日本企業関係者との親交が深い習主席の本音は日本との共存共栄に持ち込むこと。昨年10月24日に開催された「周辺外交工作座談会」で、中共中央政治局常務委員ら多数の幹部を前に、「対日関係は改善すべきだ。日中の経済交流と民間交流を強化せよ」と発言している。

TPPRCEPを繋ぐ絶好のポジション生かせ

アジア太平洋の経済相互依存で、日本は絶好のポジションに位置する。米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)と中国、韓国、東南アジアが加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)をともに推進し結合させればこの地域の繁栄と安全に繋げられる。日本が経済の相互依存よりも単純な軍事的安保優先に傾斜すれば、世界の成長センター、アジア太平洋の繁栄を損ない、アベノミクスの足を引っ張ることにもなる。

APECは21の国と地域が参加する経済協力の枠組みで、経済規模で世界全体のGDPの約五割、世界全体の貿易量及び世界人口の約四割を占める。今年11月の北京APEC首脳会議での日中首脳会談実現により、平和友好と経済相互発展を目指すのが日本にとって得策であろう。日本の経済界は日中韓FTA交渉の進展を待望しているが、中韓は先の首脳会談で抜け駆けして中韓FTAの年内締結で合意してしまった。日本の経済界は「中国市場を韓国に席巻されてしまう」と焦っている。中韓との関係改善を最優先にするべきであろう。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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