吉田陽介 2024年1月9日(火) 9時0分
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フォルクスワーゲンは中国での事業を強化する意向を示している。
米中貿易摩擦の影響で米中経済関係は緊張し、「新冷戦か」とまで言われた。一方で、中国とドイツの経済関係は政治的影響を受けているとはいえ、まだ順調に発展している。
ドイツは2016年に中国最大の貿易相手国になり、2022年の二国間貿易額は3200億ドルに達し、過去最高を記録した。
2023年1~5月の中国の対ドイツ輸出額が前年同期比8.3%減の432億290万ドル、輸入額が同3.9%減の445億6150万ドルとなったように、やや減少しているが、両国の経済関係はまだ好調といえる。
フォルクスワーゲンやアディダスなどドイツの大企業は中国での事業を強化する意向を示している。
米紙ニューヨーク・タイムズは12日、「フォルクスワーゲンが中国での業務を強化した理由」と題する長文の評論記事を発表し、同社の「中国において、中国のために」戦略は決して中国に気に入られるためのスローガンではなく、コスト削減や効率向上などの面での一連の現実的な考慮と着実な努力であることを綿密に分析した。
記事は次のように述べた。中国は世界最大の自動車市場であり、フォルクスワーゲンにとっても最大の市場だ。中国の電気自動車(EV)メーカーは中国の自動車市場でますます大きなシェアを占めており、フォルクスワーゲンの中国でのガソリン車販売台数が大幅に減少しているため、中国のEVメーカーに追いつくという戦略目標を立てている。
フォルクスワーゲンは中国市場に参入して30年余りたつが、現在も投資を続けており、中国を有望市場と見ている。
1984年に中国とドイツの合弁自動車メーカーである上海大衆が設立した。90年代初め、フォルクスワーゲンは中国で2社目の合弁企業である一汽大衆を設立した。その後、同社の自動車は中国の消費者から支持された。今世紀に入ってフォルクスワーゲンのシェアは低下したが、フォルクスワーゲンにとって中国市場は最も重要な販売地域だ。
2022年10月18日の「宝盒帯你観天下」の記事は、中国経済の発展によってフォルクスワーゲンは多くの利益を得ているとして、「2021年のフォルクスワーゲンの世界販売台数は888万台に達し、うち約40%が中国市場で、2021年のフォルクスワーゲンの中国での累計販売台数は330万台となっている。中国市場はフォルクスワーゲンが最も頼りにしている地域と言えるだろう」と述べた。
2023年10月の「中国日報」中国語版によると、中国はフォルクスワーゲングループの世界最大の市場で、売上高は40%近くを占める。フォルクスワーゲン・グループ(中国)の発表によると、2022年に中国本土と香港市場で納入した車両は318万台を超えた。うち新エネルギー車(NEV)の納入台数は前年同期比37.1%増の20万6500台だった。
ただ、2021年の中国での販売減は14%に達し、フォルクスワーゲンは世界トップの座を失った。だが、同社は中国への投資を止める考えはないようで、引き続き投資を行う意向だ。
ニューヨーク・タイムズによると、フォルクスワーゲンの中国事業を担当する同社取締役でフォルクスワーゲン(中国)最高経営責任者のラルフ・ブランドシュテッター(Ralf Brandstatter)氏は、「われわれはEVでもうけることの難しさを知っている」と述べ、さらに、「中国各地の市政府や国有銀行が本土のEVメーカーに多額の資金を注入し、販売台数の伸びを上回るペースで新工場を建設するのを支援してきたため、それに伴う生産能力の過剰が価格競争を引き起こし、EVの販売価格が大幅に低下している。フォルクスワーゲンはコストを極力抑え、EVの販売価格に競争力を持たせなければならなかった」と述べた。
フォルクスワーゲンは長期にわたってガソリン車主導の中国市場で事業展開してきたが、中国の自動車業界がEV化に移行する中で、同社の中国市場でのシェアは縮小を続けている。なぜなら、中国メーカーは、高性能で、高度にインテリジェント化したEVをリーズナブルな価格で発売するのをフォルクスワーゲンの3分の1の時間でできるからだ。
厳しい競争に勝ち抜くため、フォルクスワーゲンが取った選択は、ブランドシュテッター氏の言葉にあったように、コスト削減だ。
一つは、人件費の削減だ。具体的には、賃金が高い欧州の労働者を減らし、中国の労働者の割合を増やすということだ。
ただ、1930年代からドイツ産業の柱となってきたフォルクスワーゲンにとって人件費削減は難しい選択だ。独ニーダーザクセン州はフォルクスワーゲン株の12%近くを保有している。欧州の労働者指導者はフォルクスワーゲンの監査役会の半分近くを占めている。このため、人件費削減は容易なことではない。
人件費削減は着々と進んでいるようだ。これまで、フォルクスワーゲングループは中国市場向けの自動車設計をドイツ人エンジニアが担ってきたが、今では3000人近い中国人エンジニアからなるチームを作り始めている。彼らは中国中部の安徽省合肥市にあるフォルクスワーゲンセンターでEVを設計するという。
もう一つのコスト削減は部品の代替だ。フォルクスワーゲンは高コストの欧州自動車部品メーカーへの依存度を減らし、欧州サプライヤーの製品を中国本土で生産した部品で代替しようとしている。
ニューヨーク・タイムズは、フォルクスワーゲンが以前、中国工場で自動車を生産する際に欧州から輸入したアブソーバー(緩衝器)を採用していたことを例に挙げ、現在のアブソーバーは中国企業から調達しており、コストは以前より40%低くなっていると述べた。
また、記事は安徽省合肥市に新設されたEV組立工場の例も挙げ、高さ3メートルのオレンジ色のロボット1台がドイツから輸入されたほか、工場にある他の1074台のロボットは上海で製造されたとし、「フォルクスワーゲンは中国本土のEVメーカーに、低コストだけでなく、高効率も学ぶべきだ」と指摘した。
中国のEV生産技術が向上しているため、世界トップレベルのフォルクスワーゲンは中国の既存の工場を改造するのではなく、EV生産工場を新設し、生産ラインに中国製のロボットなどを使用し、コストの削減を図るという戦略に転換した。
これについては、2023年11月25日の「珂蘭視野」が端的に説明している。記事によると、フォルクスワーゲンは以前、主にグローバルモデルの導入によって中国の消費者のニーズに応えてきた。だが、中国のNEV市場の急速な発展に伴い、競争の激しい市場で足場を築くためにはローカル化戦略の調整が必要であることを認識した。そこで生まれたのが「中国で、中国のために」戦略という中国に深く根を下ろしたローカル化戦略だ。
例えば、フォルクスワーゲンが合肥市に新設した組立ラインには、産業ロボットおよびファクトリーオートメーション関連機器メーカーのクーカ(KUKA)社のロボットが使われている。クーカはもともとドイツ企業で、以前はドイツからロボットを輸入していた。
2016年に中国の家電メーカー「美的」が同社を買収した後は、クーカ製ロボットは上海で大量生産されている。これにより、フォルクスワーゲンは中国でロボットを調達することができ、輸送費が大幅に削減され、メンテナンスも以前より便利になった。
さらにもう一例を挙げると、フォルクスワーゲン車に搭載されているダッシュボードの電子製品は、以前は欧州の部品メーカーから大量に輸入されていたが、現在はフォルクスワーゲンが中国の小鵬汽車から調達している。小鵬汽車自身も中国のEVメーカーだが、ダッシュボードの電子製品の分野でも非常に強く、このような製品は安くて品質が良いので、フォルクスワーゲンは思い切って同社の株式の4.9%を取得した。
中国の消費の回復を確固たるものにするには、自動車、家電、家具内装、飲食の「重点消費」に力を入れることが重要と中国政府は見ており、自動車産業の発展は政府の重要政策に位置付けられている。
2023年11月16日の上海証券報・中国証券報のウェブサイトによると、中国自動車工業協会の陳士華副秘書長は11月15日、上海鋼聯が開催した2024年(第6回)特殊鋼産業チェーンサミットで、中国のNEV市場について次のように述べた。
政策と市場の相乗効果の下で、NEVは急速な成長を続け、11月は月間生産・販売台数が初めて100万台を超えた。11月の生産台数は前年同期比39.2%増の107万4000台、販売台数は同30%増の102万6000台だった。NEVの市場シェアは34.5%に達し、7カ月連続で30%を超えている。1~11月のNEVの生産台数は前年同期比34.5%増の842万6000台、販売台数は同36.7%増の830万4000台で、市場シェアは30.8%に達した。
このように、中国のNEVのシェアが拡大し、ガソリン車からNEVへの移行が加速しており、フォルクスワーゲンのローカル化戦略は時宜を得たものであるといえる。同社のローカル化戦略は、中国の消費者のニーズを把握しつつ、低コストで生産できるという一つのモデルケースではないかと思う。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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2024/1/4
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