中国の奥地で培われた奇跡の歌声「トン族大歌」の価値とは―地元の専門家が紹介

中国新聞社    2024年1月24日(水) 22時30分

拡大

西洋音楽の大きな特徴の一つが、複数の音を同時に出して「ハモらせる」ことだ。このような技巧を持つ音楽を育んだ民族は少ない。その例外の一つが中国南部に住むトン族(洞族)の合唱の「トン族大歌」だ。

(1 / 4 枚)

西洋音楽ではさまざまな高さの音を同時に響かせる技巧が発達した。ハーモニーあるいは和声と呼ばれる手法だ。西洋ではこの和声が極めて発達したが、西洋音楽以外に和声を重視する音楽は少ない。その例外の一つが中国南部の貴州省や構成チワン族自治区などに住むトン族(洞族)の合唱の「トン族大歌」だ。

その他の写真

この「洞族大歌」の公演では大いに驚いたことがある。ステージ上に立ったのは20人ぐらいの娘さんだけで、指揮者も伴奏者もいない。ところが彼女ら全員がいきなり、大音量で「ハモった」のだ。合唱の経験がある方ならご存じのはずだが、無伴奏の合唱では通常、歌い始める直前にピアノなどで音を出す。ほとんどの人は、音の絶対的な高さを認識することができないので、歌い出しの音を示してもらわないと正しい高さの歌声を出せないからだ。例外として、幼少時から音楽の訓練をした場合にだけ、音の高さの感覚を認識する「絶対音感」を獲得できるとされる。つまりステージ上の娘さんは皆、幼少期から訓練を重ねた「絶対音感」の持ち主だったということになる。

世界を見渡せば、さまざまな点で高度な音楽を持つ文化はさほど珍しくない。しかし、伝統音楽は社会構造と密接な関係を持つので、「現代化」に伴い特色ある音楽文化が消滅の危機にある事例も多い。「洞族大歌」はどのような特徴を持ち、継承のためにどのような努力がなされているのか。広西民間芸術家協会会員で自らもトン族である楊永和氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、「洞族大歌」について説明した。以下は楊氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

「トン族大歌」は固定されたものでなく、歴史を通じて進化した

トン族の伝統的な居住地は主に貴州、湖南、広西、湖北の境の山間部だ。トン族には文字がなく、多くの優れた文化伝統は歌声によって代々受け継がれてきた。「食事が体を養い、歌が心を養う」との言い方もある。

トン族の祖先は古代の越人、つまり百越族の一つとされる。越人は歌に長けた古い民族だ。前漢時代の記録では、春秋戦国時代の逸話として、楚国の大臣が船上で越人の歌を聴いて賞賛したと紹介されている。

南朝時代には、このような民謡がさらに発展し、祭礼の歌なども登場したた。宋代になると、「トン族大歌」はすでに比較的成熟した段階まで発展していた。宋代の詩人の陸游の「老学庵筆記」には、トン族の祖先と考えられる「キツ伶(「キツ」はにんべんに「乞」)」が集団で歌を歌ったと書かれている。明代にも「トン族大歌」の記録がある。時代が下るにつれ、歌詞や旋律は追加されていった。

「トン族大歌」は歴史を通じて家族内で伝承だされた。そして皆が歌のチームに所属した。チームの人数は少なければ数人、多ければ100人以上だ。そして子供のチーム、男声あるいは女声のチーム、さらに高齢者のチームの区別があった。人々は普段は農作業をして、夜や農閑期に歌を歌った。

社会の変化より伝承文化の維持と発展に新たな課題

「トン族大歌」の伝承には過去にはなかった状況が生じている。まず、本来は地元で自分らのために歌っていた。しかし、北京や上海などの大都会、さらには海外にも行って歌を披露するようになった。放送や通信の発達で「トン族大歌」が広く知られるようになったための変化だ。

一方で、「トン族大歌」を本来の形で歌う場面は減った。都市部で稼ぐために故郷を離れる若者が増え、「トン族大歌」はトン族の民衆の日常生活から姿を消していった。また、「トン族大歌」はトン族の村社会での最大の娯楽だったが、現在ではテレビ、映画、さらにはインターネットを利用した動画などの娯楽が次々に現れ、「トン族大歌」の娯楽としての地位は相対的に低下して、「多くの娯楽の中の一つ」になった。

私の地元の柳州市三江トン族自治県ではトン族大歌を現代の生活に溶け込ませるため、数年前からさまざまな取り組みをしている。まず、各級政府が無形遺物専門機関を設立し、特別経費を計上してトン族の民衆に向けトン族大歌の伝承・発展を奨励している。次に、「トン族大歌」の練習を増やして、歌詞制作や歌唱のレベルを高めている。さらに、コンクールや大歌祭、観光祭などの重要な大会や重要な祝祭イベントを開催し、その中から人材を発見し、育成している。また「トン族大歌」の学校や住人コミュニティーへの進出活動を展開している。「トン族大歌」の伝承者を招いていろいろと教えてもらっている。

三江トン族自治県では、数十の学校が「トン族大歌」の授業を採用した。地元の一部若者はネットを利用して「トン族大歌」を披露している。

「トン族大歌」を外国人に紹介する本質的な意義とは

1950年代以降、「トン族大歌」の合唱チームがフランス、オーストリア、イタリア、ハンガリーなどの国で歌を披露するようになった。仏紙ルモンドは「魅惑的なトン族のポリフォニックの歌が西洋の聴衆を引きつける」と題した記事を掲載し、「トン族大歌」ははその年の秋の芸術祭の重要な発見であり成果の一つだったと絶賛した。なお、「ポリフォニック」とは複数の旋律を同時に進行させる音楽の技法で、西洋音楽の中でも難しい技法の一つとされる。西洋の場合には楽譜を使ってポリフォニック音楽が記録され研究されてきたが、トン族は楽譜もなしにポリフォニックを高度に発達させた。

いずれにせよ、「トン族大歌」は中国と西洋の文化交流の懸け橋の一つだ。、中国の古く神秘的な文化の魅力を伝えるだけでなく、歌声で中国の物語を伝え、世界の中国についての理解を増やすことができる。

西洋音楽に慣れた耳で「トン族大歌」を聞けば、西洋音楽にはない「トン族大歌」に特有の鳥や虫の声、山や川の流れなど自然の音の模仿(まねること)を聞き取って驚き、同時に感動するはずだ。同時に、西洋音楽に特有と思っていた音楽の技法が存在することに驚き、同時に親近感を感じてもらえるかもしれない。

「トン族大歌」は単に音楽芸術であるだけでなく、トン族の社会構造、結婚や恋愛観、文化伝承、精神生活を理解する上での重要な構成部分だ。社会史、思想史、教育史、結婚史など多方面での研究価値があると同時に、外国に伝えることは、文明の交流と相互参照を世界規模で推進することに直結する。

この文明の交流と相互参照は、人類社会の進歩を推進する重要な力だ。異なる文明間の交流は互いの相互理解と尊重を促し、地域、民族、宗教などの境界を打ち破ることができる。

「トン族大歌」などの文化遺産は、外部との交流を通じて、伝統文化の歴史的なルーツや価値志向、文化の精神をより全面的に理解することができる。つまり、これらの貴重な文化遺産をよりわれわれ自身がよりよくよく保護し、伝承することにつながる。(構成 / 如月隼人




※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携