高野悠介 2024年2月7日(水) 7時30分
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中国自動車業界の2023年の年間データが発表された。中国メディアは独立ブランドの時代が到来したと盛り上がっている。写真は南京市内の駐車場。
中国自動車業界の2023年の年間データが発表された。中国メディアは独立ブランド(自主品牌)の時代が到来したと盛り上がっている。自主品牌の対義語は合資品牌といい、外資合弁企業の海外ブランドのことだ。外資の現況から2024年の中国自動車市場を展望したい。
1月9日発表の乗聯会(乗用車市場信息聯席会)のレポートによると、2023年の乗用車卸売販売台数は前年比10.2%増の2553万1000台だった。世界一となった輸出は同62%増の383万台で、国内小売販売は同5.6%増の2169万9000台だった。メーカー別の販売台数も発表された。
1位 BYD(比亜迪) 270万6075台 50.0%増
2位 一汽大衆(VW) 184万6617台 3.8%増
3位 吉利汽車 141万2415台 14.4%増
4位 長安汽車 137万2199台 77.%増
5位 上汽大衆(VW) 123万1433台 1.0%減
6位 広汽トヨタ 90万1027台 7.3%減
7位 上汽通用(GM) 87万0011台 16.1%減
8位 奇瑞汽車 81万1230台 12.9%増
9位 一汽トヨタ 80万2095台 0.3%増
10位 長城汽車 76万0091台 0.2%増
ちなみに外資100%のテスラ上海は37.3%増の60万3664台だった。
トップ10は国内5社、外資5社と半々だが、国内各社はBYDの50%を筆頭に全社伸びているのに対し、外資系は2勝3敗。この結果、2023年に独立系と外資系のシェアが初めて逆転した。中国メディアは高揚感に包まれ、BYD、吉利、長安、奇瑞の4社を挙げ、独立系の躍進を大きく伝えた。
2023年12月の車種別データがある。同月の販売台数は前年同期比8.5%増の235万3000台だった。その内訳は、独立ブランドが同17%増の124万台、外資系ブランドが同7.9%減の79万台で、差が拡大した。シェアは、ドイツ系が前年同期と変わらず20.5%、日系が同2.3%減の16.5%、米国系が同7.3%減の7.3%だった。同月の新エネルギー車比率は40%を超えた。
以下は車種別の販売台数トップ20を外資系、独立系に分けたデータだ。
外資系
2位 Model Y(小型セダン) 上海テスラ EV 6万2000台
3位 宏光Mini(コンパクト) 上海通用五菱 EV 5万1000台
5位 五蔆繽果(コンパクト) 上海通用五菱 EV 4万9000台
7位 VW・ラヴィーダ(中国専用小型セダン) 上海大衆 4万2000台
10位 シルフィ(小型セダン) 東風日産 3万3000台
12位 Model 3(中型セダン) 上海テスラ EV 3万2000台
15位 Lav 4 (小型SUV) 一汽豊田 2万5000台
18位 カムリ(中型セダン) 広汽豊田 2万4000台
20位 VWパサート(中型セダン) 上汽大衆 2万4000台
*上海通用五菱は上海汽車、GM、広西汽車の合弁
独立ブランド
1位 BYD 宋(コンパクトPHEV) 8万4000台
4位 BYD 海鷗(コンパクトEV) 5万1000台
6位 BYD 秦(小型セダンPHEV) 4万6000台
8位 BYD 元(小型SUVPH) 4万2000台
9位 BYD 海豚(コンパクトEV) 3万7000台
11位 名爵ZS(小型SUV) 上海汽車 3万2000台
13位 瑞虎8(中型SUV) 奇瑞汽車 2万7000台
14位 問界M7(中型SUV) 賽力斯(ファーウェイ系)EV 2万6000台
16位 哈弗H6(小型SUV) 長城汽車 2万5000台
17位 名爵5系(小型セダン) 上海汽車 2万4000台
19位 埃安Y(小型SUV) 広汽埃安 EV 2万4000台
外資系の歴史は現在5位の上海大衆に始まる。その先行者利益は大きく、今でもフォルクスワーゲン(VW)系の一汽大衆、上汽大衆が外資のツートップを占める。
上汽大衆は1984年に設立された。初の外資として試行錯誤し、1990年代半ばには新車開発の実践的モデルを確立した。生産規模の拡大とサンタナの現地化に取り組んだ。このプロセスは中国自動車産業への比類ない貢献と評価される。そして中国市場はサンタナの天下となり、上汽大衆は外資合弁の典型的成功例と称賛された。
一汽大衆は1991年にVW、アウディ、第一汽車の合弁により設立された。工場建設、生産、現地化を同時進行し、1996年末に年産完成車15万台、エンジン27万機の体制を確立した。1999年にアウディA6の出荷を開始し、現在はジェッダとアウディ50車種以上をラインアップ、大衆車と高級車の双方を生産する稀有な工場に成長した。
VWに次ぐ存在がトヨタだ。その中国合弁事業はVWから周回遅れで始まる。2000年に一汽トヨタを設立し、中国市場用コンパクトのヴィオスに始まり、カローラ、アリオン、アバロン、RAV4、クラウン、コースターを生産。RAV4投入により発展にはずみがついた。
2004年に広汽トヨタを設立。広州汽車にとって広汽ホンダに続く2社目の外資となった。2006年にカムリ、2008年にヤリス、2009年にハイランダー、2012年にカムリハイブリッド、2022年にフェンランダ(カローラクロス中国版)を投入した。屋台骨を支えたのはカムリだ。
トヨタは先行者のリスクヘッジ、車種の巧みなすみ分けなど巧者ぶりを発揮し、合弁企業を素早く軌道に乗せた。
現在、VWとトヨタの合弁4社はいずれも電気自動車(EV)専用工場を稼働し、生産販売に注力している。しかし、トップ20車種に見るように、独立ブランドは新エネルギー車ばかりで、海外ブランドも宏光Mini、五蔆繽果は日本の軽トラのように使われ、むしろ独立ブランドに近い。その他は功成り名遂げたガソリンエンジン車ばかりだ。これはトップ30まで広げても変わらない。
トヨタの中国販売店を訪れる人の関心は相変わらずカムリやRAV4で、EVのbZ4Xには向かないという。名車イメージが邪魔になり、新しい車名でテスラやBYDに立ち向かうのは容易でない。ならばカムリやRAV4をEV化してしまえばと思うのだが、これにはどういう障害があるのだろうか。
2024年は世界的にEVの急速な普及に再考を促す年になりそうだ。VWやトヨタの中国戦略にとって追い風となるかもしれない。外資系の逆襲もあり得なくはなさそうだ。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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