中韓より劣後「男女平等118位」をどう受け止めるのか=改善にはクオータ制導入しかない?

長田浩一    2024年6月25日(火) 7時30分

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世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で、日本は調査対象の146カ国中118位となった。

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世界経済フォーラム(本部スイス)がこのほど発表した2024年版の「ジェンダーギャップ報告書」によると、男女平等の度合いを示すジェンダーギャップ指数で、日本は調査対象の146カ国中118位となった。昨年の125位よりは上昇したが、主要7カ国(G7)では最下位で、韓国(94位)や中国(106位)の後塵を拝する結果となった。われわれはこの現実をどう受け止めるべきなのだろうか。

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ジェンダーギャップ指数の算定に疑問も

同指数は政治、経済、教育、健康の4分野について男女平等の達成度合いを測定し、それらをまとめて総合指数を算出している。報告書によると、日本は教育が72位、健康が58位と全調査対象国の中位にランクされたが、政治は113位、経済は120位に沈み、総合では118位にとどまった。国会議員・閣僚や企業管理職における女性比率の低さ、男女の賃金格差などが政治・経済分野の低評価につながった。

正直な感想を言えば、女性の平均寿命が世界一で、男女とも国民皆保険が徹底されている日本で、健康が58位というのは良く分からない。また、どう見ても日本より治安や衛生状態が良好とは思えない国が、日本より上位にランクされていることに違和感を抱く人も多いだろう。

例えば中米の小国ニカラグアは、女性議員の割合など政治分野の高評価を主因に総合で6位という上位にランクされ、健康分野の評価も日本より高い。しかし、立命館大学の筒井淳也教授によると、同国では10代前半の少女の出産が多く、そのかなりの部分が性暴力による望まれない妊娠の結果だという。われわれから見るととんでもない女性への差別であり虐待だが、「未成年出生率」が調査項目に含まれていないため、指数には反映されない。限られた項目の調査結果に基づいて指数を算定しているため、日本人にとっては納得しにくい結果となっているようだ。

また日本は、教育と健康の順位こそ全体の中位にとどまっているが、達成度合いは満点に近い(100%の達成目標に対し、教育は99.3%、健康は97.3%)。この両分野については、順位を気にする必要はなさそうだ。


政治・経済分野の遅れは明白

これに対し、政治の達成度合いは11.8%、経済は56.8%。この両分野での男女平等の遅れは紛れもない事実であり、言い訳ができない。そしてそれは、とりわけ経済界にとって「気にする必要はない」では済まされない問題になっている。

経団連はこのほど、夫と妻の双方が、結婚後も希望すれば生まれながらの名字を戸籍上の姓として名乗りつづけることができる「選択的夫婦別姓制度」の導入を政府に求める提言を公表した。結婚時に夫婦いずれかの姓を選択しなければならない現在の夫婦同姓制度の下では、圧倒的に女性が改姓による不利益を被っていて不平等であり、ビジネスの上でもさまざまな弊害が表面化しているとして、別姓制度の早期実現を求めている。

これについて日本記者クラブで会見した魚谷雅彦・経団連ダイバーシティ推進委員長(資生堂会長)は、「経済規模で世界第4位の日本が、ジェンダーギャップ指数で118位というのは極めて残念」と語る。日本企業がビジネスを国際展開していく上で、海外でも企業としてリスペクトされる必要があり、特に欧州では職員採用や取引先の開拓の際に価値観が問われる場面が多いという。女性の活躍の場を広げることに消極的な企業は、採用や商談で不利な立場に置かれる可能性があるということだ。もちろん、日本全体の指数と個別企業の姿勢はイコールではないが、「ジェンダーギャップ指数118位の国の企業」と見られることがプラスに働くとは思えない。それだけに「世界に発表される指数は極めて重要」(魚谷氏)として、指数を引き上げる必要があるとの見解を示した。


大学が「男社会」の価値体系を作った?

話は少し横道にそれるが、東京大学の現役の副学長である矢口祐人氏が著した「なぜ東大は男だらけなのか」(2024年集英社新書)は、日本の最高学府におけるジェンダーギャップの状況を描いて興味深い。東大の女性比率は、少しずつ上昇してきたとはいえ現在でも約2割にとどまる。戦前は原則男だけしか入学できなかったため、戦後に米占領軍の指示で女性に門戸が開かれても「男のための男の大学」という文化が残り、戦後まもなくはもちろん、70~80年代になっても女性は少数派の悲哀を味わったという。

同書によると、ハーバード、プリンストン、イェールなど米国東海岸の名門私立大学8校で構成されるアイビーリーグでは、1970年ごろまで原則として女子の入学を認めていなかった。日本には男女共学を強制しながら、足元では男性優先の教育を続けていたのはいかにもアメリカらしいダブルスタンダードだが、現在はアイビーリーグ各校の男女比はほぼ半々になっているという。40年代から男女共学に移行した東大の女性比率が遅々として上がらないこととは好対照だ。

個人的な話で恐縮だが、私が卒業した大学は70年代当時から女性が多かったため、女子学生たちはのびのびとキャンパスライフを送っているように見えた。しかし、私と同時代に「都の西北」で学んだ女性によると、学内の雰囲気は東大と大差なかったらしい。「入学直後、女子数人で学生食堂に入ったら、中は男性ばかり。じろじろ見られて居心地が悪く、その後は2度と行かなかった」という。

現在は、多くの大学で女子学生が増え、状況は変わっているだろう。とはいえ、日本の指導者層を数多く輩出してきた東大をはじめとする有力大学で、長年にわたり男性優先の文化、慣習が続いていたことは、現在のジェンダーギャップの状況を形成する上で一定の役割を果たしたと思う。矢口氏は「これまでの大学と社会が当然のごとく受け入れてきた男性中心の価値体系を、根本から改める姿勢が求められる」と語気を強める。


メキシコの経験を参考に

さて、ジェンダーギャップ指数に懐疑的な人でも、よほどの伝統主義者か男尊女卑論者でない限り、日本の政治・経済分野でこれまで以上に女性が活躍してほしいという見方を否定する人はいないだろう。しかし、政府の法制審議会が1996年に選択的夫婦別姓制度の導入を答申したのに棚ざらしになっている現状が象徴するように、政治の動きは鈍い。企業の女性役員・管理職の登用も、だいぶ増えてきたとはいえ、他のG7諸国と比べるとなお低水準だ。これらを改善するには、矢口氏の言うように、男性中心の価値体系を改めなければならない。

では何をすればいいのか。私は、早期に結果を出そうとするなら、国会議員の議席(または候補者)の一定割合を女性に割り当てるクオータ制の導入しかないと考える。

2日に実施されたメキシコの大統領選挙で、同国初の女性大統領が誕生したのは記憶に新しい。朝日新聞によると、メキシコにはマチスモ(男性優位主義)の伝統が根強く残っていたが、96年に努力目標としてのクオータ制を導入。2003年には30%を女性とすることが義務化され、女性議員が増えていった。そして14年には国政や地方選の候補者を男女同数にすることを義務付ける制度がスタートした。女性大統領の誕生はその延長線上の出来事であり、今年のジェンダーギャップ指数は33位と日本を大きく上回る。日本でも、同様の変革は可能なのではないか。メキシコ女性にできたことが、日本女性にはできないとは思えない。

選択的夫婦別姓制度もなかなか実現しない日本で、クオータ制など夢のまた夢、という意見もあるかもしれない。しかし、同制度は世界の100カ国以上で導入されており、国際標準になっている。何より、人口の半分を占める女性の国会議員が、衆院で1割、参院でも2割しかいない日本の現状(地方ではゼロの議会も多い)はあまりに異常だ。クオータ制について、社会全体で前向きの議論が始まることを期待したい。


■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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