<面白っ!意外?映画史(5)>洋画の邦題、意訳・珍訳・誤訳―危機は「一髪」か、それとも「一発」か?

Record China    2014年10月11日(土) 14時30分

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英国のスパイ映画「007」は、1962年の第1作から最新作「スカイフォール」(2012年)まで、半世紀以上も続く人気シリーズである。その人気を決定づけたのが、第2作「危機一発―ロシアより愛をこめて」(1963年)である。

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英国のスパイ映画「007」は、1962年の第1作から最新作「スカイフォール」(2012年、サム・メンデス監督)まで、番外編などを除いて23作、半世紀以上も続く人気シリーズである。その人気を決定づけたのが、第2作「危機一発」(63年、テレンス・ヤング監督、再公開時には「ロシアより愛をこめて」と改題)だ。

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前半の舞台、イスタンブールのエキゾチシズム、後半の危機また危機のサスペンス、まさに娯楽映画のお手本で、世界中でも日本でも大ヒットした。だが、邦題をめぐってちょっとした論争が起きた。四字熟語「危機一髪」の誤りではないか、というのだ。厳密にはそうなのだが、当時、同作を配給したユナイト映画日本支社の水野晴郎宣伝部長(後に映画評論家、監督)が敢えて、危機一髪に銃弾を絡ませた造語にしたという。

 それ以前にも「御存じ快傑黒頭巾―危機一発」(55年、内出好吉監督)があったものの、007は世界的な大ヒット作ということで、話題を呼んだわけである。それに、007以後、邦題に「危機一発」を盛り込んだ映画は多数出ており、007の影響力の大きさが知れる。「危機一発」の原題は、再公開時の邦題と同じ「ロシアより愛をこめて」なので、「危機一発」は意訳、あるいは珍訳というべきか。

 

ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の代表作「望郷」(37年)の邦題は、作品の意図をよく汲んだ意訳といえよう。原題は、ジャン・ギャバンが演じた主人公の名、ペペ・ル・モコ。アルジェのカスバで生きるパリ育ちのペペは、惚れた女が振りまくパリの香りが忘れられず、つまり望郷の念やみ難く、敢えて警察の罠に飛び込み、死を選ぶのだ。

 

また、「巴里祭」(31年、ルネ・クレール監督)も、意訳邦題として忘れてはならない。原題は「7月14日」、つまりフランス革命記念日のことなのだが、この映画が公開されてからは、日本ではパリ祭と呼ばれるようになった。

 

世紀の名女優キャサリン・ヘップパーンと世紀の美女エリザベス・テイラーが激突した「去年の夏突然に」(59年、ジョセフ・L・マンキウィッツ監督)は、誤訳というべきだろう。原題は“Suddenly Last Summer”で、語の順序はともかく、邦題のように訳したくなりそうだ。しかし、Lastの意味は「現在に一番近い」である。だから、1月以降8月くらいまでの時点でLast Summerと言えば、それは「去年の夏」を意味するものの、9月から12月までなら、「今年の夏」なのである。同作の背景は、夏が終わって間もない初秋くらいだから、「去年の夏」と訳すべきではない。菅原卓によるテネシー・ウィリアムズ原作戯曲の邦訳題名は「この夏、突然に」だ。

 

ところで、シェークスピアの「夏の夜の夢」の「夏」は、原題ではMidsummerで、以前は文豪・坪内逍遥らが「真夏の夜の夢」と訳していた。しかし、Midsummerの本来の意味は夏至であり、戦後は、福田恆存、小田島雄志、松岡和子らが「夏の夜の夢」としている。ただデータベース「キネノート」によると、映画化作品の邦題は、「夏の夜の夢」は1作だけで、「真夏の夜の夢」が6作である。意味よりも語呂のよさを重視したのか。

川北隆雄(かわきた・たかお)

1948年大阪市に生まれる。東京大学法学部卒業後、中日新聞社入社。同東京本社(東京新聞)経済部記者、同デスク、編集委員、論説委員などを歴任。現在ジャーナリスト、専修大学非常勤講師。著書に『失敗の経済政策史』『財界の正体』『通産省』『大蔵省』(以上講談社現代新書)、『日本国はいくら借金できるのか』(文春新書)、『経済論戦』『日本銀行』(以上岩波新書)、『図解でカンタン!日本経済100のキーワード』(講談社+α文庫)、『「財務省」で何が変わるか』(講談社+α新書)、『国売りたまふことなかれ』(新潮社)、『官僚たちの縄張り』(新潮選書)など。

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