八牧浩行 2014年11月17日(月) 15時42分
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安倍晋三首相が来年10月に予定されていた消費税率10%への増税の先送りを余儀なくされることになった。経済の実態は深刻で、再増税延期はアベノミクスの事実上の破たんを意味する。首相は衆院を解散し12月の総選挙で再増税先送りの是非を問う方針だ。写真は東京。
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安倍晋三首相が来年10月に予定されていた消費税率10%への増税の先送りを余儀なくされることになった。経済の実態は深刻であり、再増税延期は安倍政権が取り組んできた経済政策「アベノミクス」の事実上の破たんを意味する。首相は衆院を解散し12月の総選挙で「再増税先送り」について国民に是非を問う方針。年末の慌ただしい時に政治的空白をつくり巨費をつぎ込む総選挙は国民経済的に明らかにマイナスであり、安倍政権の延命と長期政権づくりを狙った「個利個略」以外の何物でもない。
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◆7〜9月期GDPマイナス1.6%の衝撃
消費増税は2012年の自公民3党による「税と社会保障の一体改革に関する合意」で決めたもので「国会議員の定数削減」など付帯事項が付けられた。ところが一体改革も定数実現も全く実現しておらず、消費税率だけ第一弾として今年4月に8%に引き上げられた。
消費税増税があった4月以降、消費が減退、設備投資も伸び悩み景気が失速。各種経済指標は惨憺たる結果となった。4〜6月期のGDP(国内総生産)が7.1%のマイナスとなったのに続いて、反動増が期待された7〜9月期GDP速報値も、マイナス1.6%と衝撃的な数字。11月17日の東証株価は500円以上も急落、1万7000円を割り込んだ。実質賃金は15カ月連続でマイナス。家計調査でも、9月の「勤労者世帯の実収入」は前年同日比で実質マイナス6%の大幅減少に陥っている。
9月の日銀短観で、景況感を示す業況判断指数は大企業製造業を除き軒並み悪化、3カ月後の先行き指数も大企業製造業も含め厳しい予測となった。1ドル=110円台後半の超円安も中小企業には猛烈な逆風になる。
2四半期続けてGDPマイナス成長となった最大の原因は、内外需要についての大きな誤算である。家計は4月に消費税率が上がって所得が目減りしたことで節約に走り、消費の足取りが鈍化。企業は海外生産拠点から海外市場に製品やサービスを直接出す体制を整え、輸出が伸びなかった。大幅なマイナス成長になった4〜6月のGDP発表後に広がっていた「7〜9月期はプラス成長に戻る」との楽観的な見方は完膚なきまでに覆された。先週までに同期のマイナス成長を予測した民間シンクタンクは何と皆無。個人消費は0.4%増にとどまり、プラス予想が多かった設備投資は2四半期続けて減少した。
消費増税や円安による輸入品の値上がりにより7〜9月期の消費者物価は前年比で4.0%も上昇。これを引いた実質賃金は2.5%も減った。外食支出も減り、節約が日本全国に浸透した。
◆空白期間つくる解散は個利個略
こうした惨憺たる景気状況下では消費再増税どころではない。消費増税法には経済状況を総合的に見て判断する「景気条項」があり、これを適用して「再増税見送り」を決めるのが筋である。ところが政府与党は「解散」という奇手に出ようとしている。景気対策や低所得者対策、歳出削減などの努力を尽くさず、対策の立案と実行に空白期間をつくる解散に打って出たのは「アベノミクスの失敗を隠ぺい、長期政権の基盤を確保することを狙った個利個略解散」(政治評論家)と酷評されても反論できないだろう。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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