<コラム>マッハ5以上の中国の兵器、米国は迎撃システムの開発に10年かかる

洲良はるき    2018年8月24日(金) 23時50分

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中国が豊富な資金力を背景に積極的に極超音速兵器の開発やテストをしていることは、これまでたびたび報道されてきた。極超音速とはマッハ5以上の速度のことをいい、極超音速兵器は従来の弾道ミサイルと違って非常に迎撃が難しくなると考えられている。写真は中国の空軍。

極超音速兵器の探知・追尾への答えは、数多くの小さな衛星であり、もしかすると民生宇宙開発技術がベースになるかもしれない、とグリフィン氏は主張する。グリフィン氏によれば、軍事用の高性能なシステムはこのようなことをやらせるにはふさわしくないという。

グリフィン氏によれば、極超音速兵器は戦略ミサイルより10倍かそれ以上暗いという。このため極超音速兵器の監視・追跡は、静止衛星では不可能で、より近くから見ることのできる衛星が必要になる。この10倍以上という差は、おそらく弾道ミサイルがロケットエンジンから猛烈な炎を噴射しているブースト段階(打ち上げられて上空に向かって加速している段階)と、極超音速ミサイルが滑空や巡航している段階の明るさの差だろう。HGVも打ち上げ時は、弾道ミサイルで打ち上げられるので、ブースト段階の明るさは弾道ミサイルと変わらない。

静止軌道を周回する静止衛星は、自転する地球から見ると静止しているように見える。そのため静止衛星は地球上の同じ地域を常時監視することができる。ただし、その高度は地球からだいたい3万5000キロメートルほど離れていて、地球から遠い。弾道ミサイルがエンジンノズルから炎をだしている段階なら、静止衛星の遠距離からでも赤外線センサーで監視することが可能だが、一方で極超音速兵器を見ることは難しいようだ。

一般に軍事スパイ衛星と呼ばれるような極めて高解像度の写真が撮影できる衛星は、地球に近い低軌道を周回している。これらの衛星は静止軌道衛星よりもずっと近い地球上空約数百キロメートル程度を周回するので、地球から遠い場所にある静止衛星より、はるかに詳細に地球上を観測できるわけだ。しかし、このような衛星はそれほど広い範囲をカバーすることができない。しかも、非常に高速で進むので、地球の監視したい場所の上空を短時間で通過してしまい、再び同じ場所に戻ってくるまでには一般に何時間もかかる。

英字軍事雑誌ナショナルディフェンスのウェブ記事(2018年8月10日付)によると、「かなり近い将来に、ほとんどユビキタスなセンサーが地球の表面を完全に覆うことになるだろう」とアメリカ統合参謀本部副議長ポール・セルバ大将が主張している。ユビキタスとは、コンピューターネットワークでしばしば使われる言葉で、いつでも、どこでも存在するという意味だ。将来安いコストの民生技術で打ち上げられた大量の衛星が、地球上の弾道ミサイルや極超音速兵器を、いつでも、どこでも、くまなく警戒することになるのかもしれない。

軍事と民間の間のやりとりをスムーズにするため機密情報についてのルールの調整も行われるようだ。ディフェンス・ニュース(2018年8月7日付)によると、アメリカ戦略軍司令官ジョン・ハイテン空軍大将は、一般の人々との対談を推し進めるために、宇宙に関する活動の一部の機密レベル下げたいとしている。

■筆者プロフィール:洲良はるき

大阪在住のアマチュア軍事研究家。翻訳家やライターとして活動する一方で、ブログやツイッターで英語・中国語の軍事関係の報道や論文・レポートなどの紹介と解説をしている。月刊『軍事研究』に最新型ステルス爆撃機「B-21レイダー」の記事を投稿。これまで主に取り扱ってきたのは最新軍用航空機関連。

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