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<コラム>中国海軍の要となるレーダーを米軍に売却、軍事技術の流出が止まらないウクライナ

洲良はるき    2018年9月29日(土) 22時10分

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先日、ウクライナの企業が、アメリカ空軍に対して、中国海軍の鍵となる一連の「バンドスタンド」艦載多機能レーダーシステムを引き渡したという。写真は中国海軍。

EUやアメリカとの関係をウクライナは強めているものの、欧米諸国はウクライナの航空機や兵器にはあまり関心をもたなかった。そこに登場したのが、ウクライナの航空機や兵器に非常に強い関心をもっている中国だ。これまでウクライナは数々の軍産品や技術を中国に提供してきている。中国とウクライナの関わり合いは軍需産業面だけではない。中国は、ウクライナのインフラや農業、エネルギー分野にも巨額の投資をしてきた。

特に中国は、ウクライナの航空機や軍事関連技術に非常に強い関心を寄せている。中国の航空機製造会社「北京天驕航空」はウクライナのモトール・シーチ社の経営権を購入しようと試みているといわれている。モトール・シーチ社は軍用航空機エンジン分野において世界有数の製造会社である。

今年4月にウクライナの都市ザポリージャにあるモトール・シーチ社に対して、ウクライナ保安庁が強制捜査をおこなった。ウクライナ裁判所によると、2017年9月に中国の「北京天驕航空」がモトール・シーチ社の経営権を購入するために介入し、中国がウクライナの防衛産業に深刻な被害をもたらす可能性があるとしている。強制捜査はウクライナ最高裁判所によって許可されていたものだが、モトール・シーチ社の共同経営者ヴィヤチェラフ・ボグスレイエフ氏は、強制捜査は政略的動機によるものであり違法だと抗議している。

一方で、ウクライナが中国の所有する重要兵器分野に密接に関わりを持つ製品を、アメリカにも提供した例は他にもある。有名なものとしては、先進的防空システム用レーダーのアメリカへの提供がある。

ウクライナは、アメリカに対して、2台の「36D6M1-1」という移動式レーダーを提供している。「36D6M1-1」レーダーはロシアの先進的防空システムS-300に使用されているレーダーだ。S-300防空システムにはバージョンによって幾つかの種類があるが、中国軍も数多く導入しているものだ。「36D6M1-1」レーダーはアメリカ・フロリダ州にあるオーランドにもちこまれ、アメリカ陸軍によって技術的分析がおこなわれ、また仮想敵として使用されている。

以前にもアメリカは、S-300を1990年にベラルーシから購入している。そのためアメリカは、ひとそろいのS-300防空システムを所有しており、ネバダ州にあるネリス空軍基地内に保管されている。だが、「36D6M1-1」は新型レーダーであり、ベラルーシから受け取ったものより進歩したものだ。「36D6M1-1」レーダーは、レーダー反射断面積(RCS)0.1平方メートルの巡航ミサイルに対応できるとしており、一説にはステルス機に対してもある程度まで有効だと言われている。

アメリカ側がウクライナの軍事技術の中国への流出を懸念する一方で、中国も旧ソ連やロシアから取得した軍用品や技術の情報が、ウクライナを通じてアメリカへ漏れることを心配しなければならないような状態だ。なんとも皮肉なめぐりあわせである。

■筆者プロフィール:洲良はるき

大阪在住のアマチュア軍事研究家。翻訳家やライターとして活動する一方で、ブログやツイッターで英語・中国語の軍事関係の報道や論文・レポートなどの紹介と解説をしている。月刊『軍事研究』に最新型ステルス爆撃機「B-21レイダー」の記事を投稿。これまで主に取り扱ってきたのは最新軍用航空機関連。

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