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<直言!日本と世界の未来>安倍首相が辞意表明、後継政権に望むこと―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年8月30日(日) 6時20分

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安倍晋三首相が体調悪化を理由に辞任を表明、突然の幕引きでびっくりした。8月28日の辞意表明記者会見をテレビで見たが、首相の表情にはかつてのような張りがなく、口調は弱々しかった。写真は安倍首相。

安倍晋三首相が体調悪化を理由に辞任を表明、突然の幕引きでびっくりした。8月28日の辞意表明記者会見をテレビで見たが、首相の表情にはかつてのような張りがなく、「国民の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった」と語る口調は弱々しかった。

持病である潰瘍性大腸炎が再発する兆候が6月に見つかり、今月の検査で確認されたという。最長政権の記録を打ち立てたとはいえ、新型コロナウイリス感染対策や経済再建など課題山積の中での退陣は無念であろう。

安倍首相の在任日数は12年の第2次政権発足後、連続で2800日を超え、歴代最長を更新した。ほぼ1年ごとに6人の首相が入れ替わった混乱状態に終止符を打ったのは功績だ。アベノミクスで景気回復をアピールし、内閣支持率を安定させた。

政権奪還につながった衆院選を含め、国政選挙で6連勝したことが政権の推進力となったとされる。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の大胆な金融緩和や日銀・年金基金による株・国債購入、機動的な財政出動は、円安・株高など多くの効果をもたらした。経営環境が好転したのは産業人としてありがたいことだった。

半面、「異次元」の政策は副作用や歪を与えていると思う。安倍政権は基礎的財政収支の黒字化目標や社会保障の抜本改革の議論を先送りしてきた。後継首相には生産性や潜在成長率を高め、財政健全化と両立させてほしい。2年前の2018年9月の自民党総裁選で安倍首相は「すべての世代が安心できる社会保障制度へ3年で改革を断行する」と訴えたが、これも実行されていない。

さらに財務省文書改ざん問題や、森友、加計問題、桜を見る会問題などで傷ついた政治への信頼の回復も待ったなしであろう。集団的自衛権の行使を一部認める安全保障法制や特定秘密保護法制は、国論を二分したが、選挙で得た与党の数の力で押し切った。

自民党は次期総裁選びに入る。「コロナ危機」が続いていることを考えれば、迅速に選ぶ必要があるが、密室での協議で決めるようなことはしてはならない。

コロナ禍で落ち込む経済の立て直しや米中対立によって不透明化する国際情勢への対応など課題は山積している。こうした危機に取り組む新たな体制を、開かれた論戦を通じて構築する必要がある。

日本は日米同盟を基軸としながら、中国とも経済を中心に協調する方針を維持する戦略を描いてきた。安倍政権を引き継ぐ政権は国益最優先を貫き、安全保障を依存する同盟国・米国と最大の経済貿易相手国である中国との狭間で、激動の国際情勢を冷静に見据えた戦略を描くべきであろう。

<直言篇130>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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