莫邦富 2021年1月22日(金) 18時20分
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新年の食事のことを言うと、やはりおせち料理は避けて通れない。今回はおせち料理を通して在日中国人の食卓事情と中華レストランの試みをチェックしてみたい。写真は料理研究家・小薇さんのおせち料理。
雨後のたけのこのように登場してくる新華僑系中華レストランのなかで、私が特に注目しているのは、石川県金沢市の中華料理の名店・菜香楼だ。
広東料理を看板とする菜香楼は1996年に創業し、わずか4年後の2000年には敷居の高い百貨店のデパ地下に進出し、地元で高い評価を得た。2006年には和風中華料理を特徴とするレストラン「招龍亭」を買収し、北陸最大規模の中華料理グループとして躍進した。
今年の菜香楼のおせち料理は、「ミニ版中華風おせち料理」と呼ばれる中華オードブルを含めて1000食以上も売れた。その意味では、菜香楼はすでに地元で人々に認知された中華料理のブランドになっている。
菜香楼の発展ぶりを見た東京の新華僑経営者はうらやましそうに以下のような感想を口にした。
「菜香楼の努力も大いに評価すべきだが、東京ほど激しい競争がない地方だから、やり遂げられた成功でもある。やはり、同社の経営者が横浜での創業を断って、地方を選んだその決断は先見の明がある」
■春節はビジネスチャンス
日中ビジネスに携わる人間にとっては、新年のことを聞くと、いつも頭が痛いのは、毎年二つの新年があることだ。ご存じのように、日本は暦の通り、元旦を新年とする。一方、中国は旧正月(春節)を新年と見なす。その二つの新年を迎えるには、1カ月半ぐらいが費やされてしまう。だから、日中ビジネスに携わる人間はいつも10カ月ちょっとの時間で1年間の仕事をこなしていかなければならない。
しかし、日本の観光業や飲食業、特に中華レストランにとっては、春節はまるでおまけでつけてくれたビジネスチャンスのようなものだ。近年、日本のデパートなどを見ると、春節を迎えるために注いだ情熱はすごいものがある。コロナ禍に翻弄された今年でも、日本の正月と中国の旧正月を上手にビジネスチャンスにする中華レストランがある。
前出の菜香楼のおせち料理が伝統的な高級路線を歩んでいるとすれば、東京新橋にある上海料理レストラン・上海風情は庶民寄りの大衆路線を選んでいる。しかも、上海風情は日本の正月向けのおせち料理と春節の大みそかの夕食(年夜飯)を意識的に混合させる作戦をとった。昨年の12月下旬から売り出されたときは、中華のおせち料理としてアピールする。1月下旬に入ると、今度は簡略版おせち料理とも言える春節の年夜飯として売り込む。火鍋シリーズもあれば、家族のだんらんを意識したメニュー構成にも心を砕く。
こうした市場ニーズに応えるため、テレビなどでも活躍している在日中国人料理研究家の小薇(シャウウェイ)さんも積極的におせち料理や年夜飯のメニューを提案したりしている。
そう言えば、わが家の新年の食事もおせち料理や年夜飯の両方を用意する。娘が米国に留学した経験をもっているし、家内がイタリア料理を勉強したことがあるから、その内容はだんだん多国籍化している。お酒があまり飲めない私でも、近年、白ワイン、特にニュージーランドの白ワインにハマっている。自然に西洋料理もわが家の食卓を飾るようになっている。新年のメニューにもこうした影響が見られる。豊かな社会は多文化を上手に受け入れられる存在だ。在日中国人の新年の食卓はその多文化社会の多彩さを映し出している鏡のようなものだ。
■筆者プロフィール:莫邦富
1953年、上海市生まれ。85年に来日。『蛇頭』、『「中国全省を読む」事典』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーに。そのほかにも『日中はなぜわかり合えないのか』、『これは私が愛した日本なのか』、『新華僑』、『鯛と羊』など著書多数。知日派ジャーナリストとして、政治経済から社会文化にいたる幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭」といった新語を日本に定着させた。また日中企業やその製品、技術の海外進出・販売・ブランディング戦略、インバウンド事業に関して積極的にアドバイスを行っており、日中両国の経済交流や人的交流に精力的に取り組んでいる。ダイヤモンド・オンラインにて「莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見」、時事通信社の時事速報にて「莫邦富の『以心伝心』講座」、日本経済新聞中文網にて「莫邦富的日本管窺」などのコラムを連載中。シチズン時計株式会社顧問、西安市政府国際顧問などを務める。Facebookはこちら
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